官民連携ビジネスを継続的に成長させるためには、行政内部の意思決定プロセスを理解したアクションが重要です。
ご存じのとおり、自治体の会計年度は4月に始まり3月に終わりますが、そのなかで、外部からはみえない様々な意思決定がなされています。
下記のスケジュールは、一年間の行政内部の動きを簡単にまとめたものですが、ざっくりいえば「来年度予算」と「今年度事業」の2つにわけられ、これらが平行して進んでいきます。
この2つの流れが、いつ、どのように進んでいるのか理解しておくことが、営業活動の最初の一歩と言えます。
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「見積依頼」には2種類ある
官民連携ビジネスに慣れていない企業の多くが混乱するのが、この2つの動きが重複する8~9月。
来年度予算要求の弾だしの最終段階であり、今年度事業が発注されるぎりぎりのタイミングでもあります。
同じタイミングで見積を求められた場合、「これは今年度業務の見積もりか?それとも来年度予算のための見積もりか?」と迷うことが多いもの。
今年度の受注を狙うつもりで出した見積もりが、来年度予算要求のためのものだった、なんてことになれば、今年度の売り上げにも影響してしまいます。
2つの流れを理解して、適切に対応することが必要です。
判断材料は、見積依頼の参考資料
自治体からの見積もり依頼が来た時に、来年度予算要求のためのものか、今年度業務のものなのかを判断する材料の一つが、見積依頼に添付された説明資料です。
予算要求のための見積もり依頼
まずは来年度予算のための見積もり依頼から見ていきましょう。
8月のお盆前後の時期は、各課で来年度事業のアイディアをテーブルに挙げ、予算規模をにらみながら「何を続けるか、新しく始めるか、やめるか」を取捨選択しています。
特に新しく始める事業の場合、どれくらいの予算が必要になるのか読めないことも多く、あてずっぽうで予算を上げてしまうと対応できる企業が存在せず、不調不落で事業が実施できないなんていうことも。
このため、自治体側で概略の業務項目を記した資料を作成し、実績のある企業へ見積もり依頼するのが一般的です。
呼び方は「仕様書案」や「事業概要」など自治体により異なります。ファイル形式もワードで業務項目がリストアップされただけのものもあれば、イラストを用いてわかりやすく説明したPPTまで多様です。
共通しているのは、業務の主要な項目だけが抜き出されていて、一般的な仕様書に書かれているような詳細な手続きに関する情報などが割愛されていることが多いです。
今年度業務の見積もり依頼
対して、今年度業務の見積もり依頼はすぐに売り上げにつながりますが、すでに競合他社も動いているので、競争環境をにらみながらの対応が求められます。
では、年度内に発注される業務の見積もり依頼とは、どのようなものでしょうか。
じつは前年度の3月議会で予算上限が決まっている事業の中には、事前に見積もりを取得せず、他自治体の事業費などを参考に予算要求している場合もあります。
これらの業務を発注する際、予定価格を決めるために行われるのが「見積徴取」です。
自治体ごとに契約規則や内規で、予定価格の決め方を自由に定めることができますが、多くは国のルールに準じて「取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間等を考慮して、公正に算出する」「そのための手法として複数社からの見積もりを徴取する」としています。
つまり、年度内に発注される業務の見積もり依頼は、ダイレクトに予定価格に反映されるもの。見積依頼に添付されている仕様書も、ほぼ最終版と考えて間違いありません。
仕様書を見たことがない方は、ぜひ「プロポーザル 仕様書」でウェブ検索してみてください。公募中の様々な案件がヒットするので、仕様書の実例を見ることができますよ。
見積依頼の違いを理解し、適切な見積を行う
2つの見積依頼の違いがわかると、見積作成の留意点も見えてきます。
予算要求用の見積もりは、あくまでも内部手続き用の参考資料という位置づけです。
このため、提出した金額からさらに査定されることを前提に、必要費用をしっかりと乗せて提出することが重要になります(まちがっても値引きなどしないように)。
また、提出した見積が採用されたのかどうか気になるところですが、自治体から結果の連絡があることは非常にまれです。
さらに、8月に提出した見積もりが翌年3月議会で予算化されても、発注されるのはさらに数か月後になりますので、自社の年度内での売り上げには貢献できないと思います。
予算要求のための見積もりに対応する場合は、刈り取りまでに1年近くかかることを社内にも説明し、気長に対応していくことが重要です。
他方、今年度事業のための見積もりは、予定価格に直結する非常に重みのあるものになります。
自治体は通常、複数の企業から見積もりを徴取し、決められた算定ルールにもとづき予定価格を設定しています。
このルールは自治体ごとに異なり、かつ決して公表されませんので、提出した見積額と予定価格がどの程度乖離しているのか(上振れ、下振れ)予想することは困難です。
このため、同種事業の予定価格や競合他社の落札額などを見ながら、自社としても利益が確保できる水準に設定するなど、総合的な分析力・判断力が求められます。
なお、「実勢価格」を把握するための見積徴取ですから、このタイミングでの値引きは厳禁!値引きをしていいのは、公募後に提出する「勝ち取るための見積(入札金額)」のみです。
最後に
8月から9月にかけて、皆さんのもとに様々な見積依頼がやってきます。
それぞれの見積依頼の背景や位置づけを理解することができれば、いつの時点の売り上げ見込みに計上すべきか判断できるようになりますので、事業計画の精度も高まってくるはずです。
ここまで、BtoBビジネスとは違う自治体案件特有の見積の考え方をお伝えしてきました。
皆さんの官民連携ビジネスに対する心理的ハードルを下げ、面白さを感じていただけると幸いです。
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