内閣府が今年6月に公表した「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年度改定版)」によると、今後10年間で30兆円の新規事業を創出する目標が掲げられています。
単純に年割すると、年3兆円の新規事業が生み出されるという計算になり、そのインパクトはなかなか大きなものです。
もし、年3兆円という数字だけではピンとこない場合、他業種の市場規模と比較してみましょう。
「会社四季報業界地図2022年版」によると、リフォーム・リノベーション(3.5兆円)、警備(3.5兆円)、飲料・乳業(3.4兆円)、食肉(3.2兆円)ソフトウェア市場(2.7兆円)。
これらの業界と同じ規模の事業が、全国で政府の支援によって生み出されることとなります。
なかでも、今回のアクションプランで特徴的なのは、
スタジアム・アリーナや文化・社会教育施設、公園などの新しい領域への拡大
小規模自治体での活用促進
民間提案制度の活用や民間が創意工夫を発揮できるような施策強化
にあります。
これらの案件に対応するための備えとして、何を準備すればよいのでしょうか。
そのポイントを、複数回にわたって解説していきます。
① スタジアム・アリーナ分野の特徴、事例、参入のポイント
② 文化・社会教育施設の特徴、事例、参入のポイント
③ 公園分野の特徴、事例、参入のポイント
④ 小規模自治体でのPPP/PFI事業の特徴、事例、参入のポイント
⑤ 民間提案制度の概要、事例、実施のポイント
スタジアム・アリーナ分野の特徴
スタジアム・アリーナなどのスポーツ施設については、文部科学省が2026年度までに10件のコンセッション事業(※)具体化に向け、案件掘り起こしや補助金交付を積極的に進めることとしています。
公共施設等運営(コンセッション)方式について
|
(出典:https://www8.cao.go.jp/pfi/concession/pdf/con_houshiki.pdf)
整備だけで数百億円、維持管理にも莫大な費用がかかるスタジアムやアリーナでは、官民連携の最大の目的は「魅力向上と投資回収」です。
コンテンツの魅力を高め、稼働率や単価を上げることにより、莫大な初期投資や維持管理費を賄うことが重視されます。
これまでのスタジアム・アリーナ事業の官民連携では、プロスポーツクラブとの連携やコンサート等のイベント利用、商業施設併設による日常利用など、様々な要素を考慮した事業計画が求められました。
このため、単にスポーツ施設の運営経験があるだけでは太刀打ちできず、プロスポーツクラブの支援やイベント誘致機能、デベロッパー機能など、各分野の専門家によるコンソーシアム組成が不可欠で、かなり難易度の高い事業といえます。
スタジアム・アリーナの官民連携事例
先日(8/22)事業者が決まった「新秩父宮ラグビー場(仮称)整備・運営等事業(運営期間30年)」を見てみましょう。
コンソーシアムメンバーは、ゼネコン、デベロッパー、ビルメンテナンス、スポーツ施設運営、イベント、メディアなど、幅広い業種から構成されていることがわかります。
また、金額について、落札者は81億円の入札金額を提示しています。
他の入札参加者の入札金額が3桁億円であるのに対して、ずいぶんと安価で入札しているように見えますね。
(出典:https://www.jpnsport.go.jp/corp/Portals/0/News-Release/R4/20220822newsrelease.pdf)
百億円を超える金額をダンピングするなんてありえません。
では、なぜこのような金額で入札できたのでしょうか。
その秘密は、落札者の入札金額内訳をみると明らかになります。
上記の日本スポーツ振興センターの資料によると、入札金額は「施設整備費+博物館維持管理費ー運営権対価」で計算されます。
落札企業の内訳では、施設整備費を489億円、維持管理費を4億円としており、コストをしっかりと計上している一方、事業からの収益還元額を表す「運営権対価」も412億円を計上しており、差し引きで見ると最も入札金額が低くなったと考えられます。
スポーツ施設運営、イベント企画、商業施設整備といった様々な分野のプロフェッショナルが一堂に会し、ともに事業を進めることにより、これほどの巨額の運営権対価を支払う算段が立ったのだと言えます。
参入のポイント
ここまでで見た通り、スタジアム・アリーナは体育館などの一般的なスポーツ施設とは異なり、「いかに収益を上げられるか。それを実行できるメンバーと組むことができるか」が勝敗を分けます。
もしあなたが設計や建設、維持管理を得意とする会社の場合、収益化に強い運営事業者やデベロッパーとのネットワークはあるでしょうか。
逆に、公共施設の運営を得意としている会社やデベロッパーの場合、大規模かつ特殊な構造を持つ施設の設計や施工、維持管理をお願いできる会社とのつながりはあるでしょうか。
これからの官民連携事業では、「異業種連携」の重要性がますます高まってきます。
日ごろから様々な業種の方との接点を持ち、小さくても一緒に事業を行う経験を積み重ねていくことにより、将来の大規模案件にむけた基礎を作っていくことができます。
数百億円の事業なんて、とてもじゃないけど手が出ないかもしれません。
でも、数十億円の事業なら、普段お付き合いのある企業同士で集まってチャレンジすることも可能でしょう。
千里の道も一歩から。
10年後を見据えて、地域の企業同士で勉強会を始めるなど、小さくできることから始めてみてはいかがでしょう?
Comments