人口減少・高齢化は課題といえる?
よく「人口減少・高齢化が地方都市共通の課題だ」と言われます。
そのために行政を中心として様々な対策も講じられ、多大な予算が消化されています。
ところで、「人口減少・高齢化」は本当に『課題』なのでしょうか。
PRESIDENT Onlineの記事によると、「課題は直接的に解決できることで、課題が解消されれば結果的に問題は解決される」とあります。
端的に言うと、「問題」とは「あるべき姿」を阻害されている状態のことを差し、「課題」とはその阻害要因を解消するために解決すべき具体的なポイントを指します。私たちが直接的に解決できることは「課題」です。「課題」が解消されれば、結果として「問題」は間接的に解決されることになります。 (出典 戦略コンサルタントはなぜ「問題」と「課題」を使い分けるのか切り分けることで解決策が見える)
ということは、人口減少や高齢化を直接的に解消できなければ、地方都市の問題は解消されないことになります。
しかし、人口減少や高齢化を「直接的に解消」することってできるのでしょうか。
例えば強制的に人を連れてきて住まわせる?高齢者が住みにくい街にして転出を促す?
そんな政策は、住民から猛反発されてしまいますよね。
根っこにある問題を間違えない
そもそも、人口減少や高齢化が「課題」というなら、その根っこにはどのような「問題」があるのでしょう。
たとえば、人口減少や高齢化により引き起こされる地方都市の問題として、考えられるのは、税収減による行政サービスの低下や、それに伴う市民の困難さの増加、その結果としてさらなる人口流出によるマイナススパイラル、などがあげられます。
行政の視点から見ると、解決すべき問題は「税収増と行政サービスの向上」であり、そのためには生産年齢人口が増えることが至上命題だということも理解できます。
では、生産年齢人口が増えることで人口が増え、高齢化率が引き下げられると、上記の問題は本当に解消できるのでしょうか?
どうやったら生産年齢人口が増えるのか。問題に対する課題の掘り下げが足りていないように思います。具体の打ち手が全く見えてこないからです。
生産年齢人口を増やすぞ!と表明すれば、課題は解決できると思えませんよね。
また、昨今の「交流人口・関係人口」に代表されるように、必ずしも居住者が増えなくても地域経済や税収へのプラスのインパクトを生むことは可能です。
住民同士が相互に支えあう「共助」(注:自分で自立するのが自助、行政が支えるのが公助、コミュニティで支えあうのが共助。)の仕組みが増えれば、行政サービスが不要になるかもしれません。
こう考えていくと、「人口減少・高齢化(≒生産年齢人口の増加)」はそもそも『課題』とも言えなさそうです。
つまり、「人口減少と高齢化」は課題ではなく、「税収減と行政サービス低下」という問題のですら問題といえないのではないでしょうか。
人口が少なくても、高齢者が多くても、地域に住む人がみな健康で幸せな生活を送れていれば、それがゴールなんじゃないかと思います。
市民の幸福度を上げること。
GNH(Gross National Hapiness)の最大化。
それが地域の目指すべき姿であるにもかかわらず、市民が幸せに暮らせていない現状があって、この現状こそが、行政が取り組むべき「問題」なのではないでしょうか。
問題の掘り下げ方を間違えると、問題は解消するどころか深刻化するだけ
ある記事で、市長が「人口減少と高齢化により、地域コミュニティ―がどんどん壊れている。解決策として、共助型社会システムの構築と先端技術の活用しかない」と言っているのを見かけましたが、どうしても違和感を感じてしまいます。
「地域コミュニティーが壊れる」ことと市民の幸福度は、本当にリンクしているのでしょうか。都心のタワマンのように、高収入があり会社コミュニティに属し、個として自立した人たちが地域の助けを借りずに幸せに暮らせているのだとしたら、それは不幸なことと言えないように思います。
(もちろん個人的に、地域コミュニティはじめ様々なコミュニティへの帰属意識が人生を豊かにしていることに疑いはありませんが、コミュニティに帰属することが幸せではない人もいる、ということは理解する必要があります。)
「地域コミュニティーが壊れる原因」は、本当に「人口減少と高齢化」なのでしょうか。地域への帰属意識が薄く、自治会活動に意義を見出せない若者が増えた場合、地域コミュニティーが再生するとは思えません。若者が参加の意義を感じにくい旧態依然とした(既得権益化した)地域コミュニティばかり存在し、そこに対してじゃぶじゃぶと税金を投入することは正解でしょうか。
「市民の幸福度の低下」という問題の掘り下げ方を間違えると、打ち手の効果が薄まるばかりか、さらなる問題の加速を生んでしまう場合もあります。
簡単ではない問題に取り組むなら、安易な結論に飛びつかないことが大切
「ここに住んでいても幸せになれない」と将来を悲観した人は、地域に見切りをつけて簡単に出ていってしまいます。
では、どんな人が出て行っているのでしょうか。
「まちづくり幻想」を著した木下斉さんは、統計データを分析した結果、「20代の女性が地域から流出している」ことを明らかにし、その要因として「地域企業の仕事内容やカルチャーが、若者にとって魅力的ではないから」という仮説を立てています。
つまり、企業を外から誘致したり新規産業を生み出すことと同じか、それ以上に、既存の地域企業が若者の就職先として魅力的に見えるよう、経営者含めたマインドチェンジが重要だ、ということです。
なるほどこれも一理ある。。。
そもそも地方からの人口流出は前述の通り、若者であり、女性です。より具体的に言えば、20~24歳の女性が地方に見切りをつけて、東京に向かっています。 2019年、20~24歳の男性の東京都への転入超過数は2万5512人。一方、女性は3万1685人となりました。最新の2020年統計をみても、2019年と比較すれば減少しているとはいえ、男性の20~24歳の転入超過数は2万2921人、女性は2万7418人です。女性優位は続き、流入超過数もあまり変わっていません。 人口流出問題を取り上げるとすれば、この20~24歳の人たちの願いをどれだけ地方がかなえられるか、がテーマになるはずなのです。 しかし、実態はいまだに地方創生、人口の東京一極集中の是正という名目で、意味不明な箱モノを作ってみたり、観光企画や街路整備をやったりしているわけです。的外れにも程があります。 20~24歳の上京要因の多くは就職選択です。今後の人生のキャリアを形成していく上で、地方企業ではなく、在京企業を選択している背景にあるのは結局のところ、地方企業の女性雇用が全く魅力的ではないことです。 https://president.jp/articles/-/43858?page=1
移住定住促進の前に、なぜに地元から生まれ、育った人が出ていくのか。そこに地元として何が問題であるのか、そしてそれを改めてる努力はどこまでしているのか、ということと向き合わずして、本当の意味で持続可能な地域形成は不可能だとおもうところです。https://note.com/shoutengai/n/n44dabc4fb3a9
いずれにしても、大事なのは、問題を正しく特定し、その原因(=課題)をロジカルに分析し、すぐに取り掛かれる粒度の対策を立て、実行すること。
このプロセスのどこかをすっ飛ばしてしまうと、税金投入の効果が上がらないばかりか、成果検証すら難しくなり、軌道修正ができず、「何をやってもうまくいかない、成果が出ない」という暗中模索に陥ってしまいます。
地方都市が元気になるためには、「人口減少・高齢化が課題」という幻影にとらわれず、政府が旗を振ったりメディアで報道される解決策にも安易に飛びつかず、地域それぞれの課題を掘り下げていく姿勢が大切だと、改めて思います。
コメント