よく、お客様から「プロポーザルと総合評価ってどんな時に使い分けるの?」という質問を受けます。
ざっくり言えば、プロポーザルは発注者側が明確な答えを持っておらず、予算の範囲内であればカネに糸目をつけず、パートナーとなってくれる企業を選定するもの。
総合評価は、発注者側がある程度の答えを持っており、提案内容とコストのバランスがいい企業を選ぶもの。
もちろん、プロポーザルと総合評価の違いは、随意契約か入札か、という契約の相手方の決定ルールとも深く関係していますし、同じような業務でも発注者によってプロポーザルを選ぶ自治体、総合評価を選ぶ自治体など、違いがあります。
もっとクリアに説明できる資料がないか、と探していたところ、国交省がプロポーザル方式を採用する場合の基本的な考え方を示したガイドラインを公表していましたので、今回はこちらを解説していきます。
国土交通省が作ったプロポーザル方式の運用ガイドライン
国交省が作っているのが「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン」。
「建設コンサルタント業務等」となっていますが、建設コンサルタントの業務には調査、計画、設計などかなり広範な内容が含まれており、国土交通省以外の政府機関が発注する際にも、こちらのガイドラインが参考にされることがあります。
このガイドラインでは、国交省が「プロポーザルに適した業務の考え方」や「提案評価の評価基準や配点」について設定した内部ルールが明記され、図や表を用いてわかりやすく説明してくれています。
https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/keiyaku/201503/150310guideline.pdf
発注方式の選定フロー
こちらの図は、どんな場合にプロポーザルや総合評価が選ばれるのか、フローチャートで示したものです。
(https://www.mlit.go.jp/tec/nyuusatu/keiyaku/201503/150310guideline.pdf) これを見ると、高度な技術や高い専門性が必要で、発注者が仕様書を固めきれない業務が『プロポーザル』になり、資格や実績、成績要件さえ満たせばだれがやっても変わらない業務が『価格競争(いわゆる競争入札)』となっているようです。
よく自治体営業で、担当者と翌年度事業のアイディアだしをしていて、「前例のないチャレンジをしよう!」と盛り上がったのも関わらず、「会計課からプロポ―ザルはダメと言われたので、入札になります。」と言われることがあります。
このような場合、提案側として「はいそうですか」と簡単にひくことはまれです。
何とかプロポーザルにできないか、この業務の難しさや特殊性を会計課に理解してもらうため、自治体担当者と一緒に会計課を説得するための知恵を絞ります。
そうでなければ、経験がないのに実績を作りたいだけの事業者が安値で落札し、思うような成果が上げられないのはもちろん、事前にアイディアを出した事業者側にとってもアイディアの取られ損となってしまい、その自治体には近づかないようになってしまいます。
自治体営業では、入札から総合評価、プロポーザルへと、より高いスキルやノウハウが求められる発注方式になるよう、提案をしていくことが重要です。
それにより、相対的に競争相手が減り、価格競争から逃れられるので収益性も改善します。
分野ごと・業務ごとの判断基準
分野ごとの図解は、さらに興味深いです。知識を縦軸に、構想力・応用力を横軸にして、各分野の業務内容をプロットしています。
ためしに河川事業・都市事業・道路事業、測量事業をそれぞれを見てみましょう。
高度な解析技術が求められる河川事業や、センスやコーディネート力が必要となる都市事業では、知識・構想力とも高いレベルが求められる業務が多いため、「プロポーザル」寄りになっています。
多方、データ取得や整理・分類などの『作業』が中心となる測量事業では、知識・構想力がそれほど求められないのか「価格競争」の割合が多くなっています。
最後に道路事業ですが、全国的にかなり案件数が多く発注者側のノウハウも蓄積されているためか、受託者に求められる知識・構想力レベルは「中の上」あたりに集中しており、モノによってプロポーザルか総合評価が選択されるようです。
これらの図で注目すべきは、価格競争と総合評価、プロポーザルの境界線上にある業務群です。これらは、業務そのものの難易度のほか、発注者側の知識・経験量の多寡によっても発注方式が変わってきます。
例えば防災対策検討業務(道路事業の総合評価とプロポーザルの境目にある)について、過去に幾度となく災害の被害を受け、庁内で災害対策のノウハウが蓄積されている自治体であれば、総合評価方式を選ぶかもしれません。
多方、めったに災害が発生しない自治体が何らかの理由で災害対策を検討しなければならなくなり、ノウハウを持つ事業者を選ぶ場合は、プロポーザルが選択されることになります。
営業の視点から
ここまでは行政内部の意思決定のお話でしたが、これらの内容を企業目線で考えてみます。 例えば営業のアプローチについて。
自社に経験のない新しい分野にチャレンジする場合は、入札(価格競争)や総合評価で実績を作り、プロポーザルに対応できる高いノウハウと実績を獲得するのが王道です。
このため、最初に類似事業の発注実績豊富な自治体をターゲットとして入札で案件を獲得し、経験を積んだのち、その分野の発注実績のない自治体を探してプロポーザルを提案していく、ということが考えられます。
ただし、このようなサイクルを回してもなかなかプロポーザルにならないケースがあるので、注意が必要です。 その理由として、自治体側にプロポーザルの経験が少なかったり、難易度の高い業務に取り組んだ経験がないゆえ難しさをわかってもらえず、単純な入札(価格競争)で発注されることです。 このような自治体には、営業段階でいろいろな資料を作って提案したりする必要があるため、それなりの工数がかかります。
将来、一定規模の案件になるかどうか見極めながら、営業段階での踏み込み方を書投げていく必要があります。
例えば、翌年度以降も継続する可能性があったり、他の自治体で同種業務が増加する見通しがある場合には、営業と割り切って目の前の小規模案件に取り組む意義はあります。
多方、少額案件かつ1回きりで終わってしまい、その後の横展開も期待できないような場合には、かけたコストを回収できない可能性が高いため、あまり深追いせず、静かに幕引きしておいた方が賢明です。
さいごに
発注方式は発注者が決めるもので、事業者がコントロールできない、と思っている方が多いかもしれません。
しかし実際は、業務の難易度に応じて判断されているということがお分かりいただけたと思います。
営業している案件の難易度を踏まえ、どのような方式で発注してもらいたいか事前営業のタイミングでしっかりと打ち込んでおいたり、自治体内部の検討に資する資料を提供するなど、サポートすることも大切になってきます。
自治体営業の世界は、狭く、奥深いもの。
これからも、自治体営業で重要なトピックを取り上げて、記事にしていきたいと思います。
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